注目されているMIM成形

複雑な形状の金属部品を効率的に作ることは、現代の製造業にとって重要な課題です。自動車、精密機器、電子機器、医療機器などの分野では、小型化・軽量化が進み、従来の切削加工では作りにくい複雑な部品の需要が増えています。

そこで注目されているのが、MIM成形(Metal Injection Molding、金属射出成形)です。この技術は、細かい金属粉末と樹脂を混ぜてプラスチック成形のように金属部品を作り、その後の工程で高密度の金属部品に仕上げる方法です。

MIM成形の提案をすると「MIMって何」というところからスタートするほど、意外と知られていない成形手法なんです。

従来の切削加工では難しいステンレスなどの材料でも、複雑な形状に加工できるため注目を集めています。一方で、複雑形状の金属部品には、実績豊富なロストワックス鋳造という方法もあります。どちらの方法を選ぶかは、部品の形状、精度、生産数量、コストなどを総合的に考えて決める必要があります。

武杉製作所では、ロストワックス鋳造とMIM成形のどちらにも対応しております。お客様のご要望、仕様に合わせ最適な加工方法を提案いたします。

比較項目MIM成形ロストワックス鋳造
対応サイズ小型(~数cm)◎小型~大型(~数十cm)◎
対応ロット数大量生産向き(10,000個~)◎小~中量(1個~数千個)◎
寸法精度高い(±0.5%程度)◎普通(±1%程度)○
複雑形状対応微細・小型形状◎中~大型・複雑内部形状◎
材質対応限定的(ステンレス中心)△幅広い材質(ステンレス・チタン等)◎
金型(初期費用)百万円~数万~数十万程度
コスト傾向量産で安価小量~中量なら安価

MIM成形の基本を知ろう – 技術の仕組みと作り方

MIM成形ってどんな技術?

MIM成形は、金属粉末冶金と射出成形技術を巧妙に組み合わせた製造工法です。この技術により、粉末材料からニアネットシェイプ(ほぼ完成形状)に近い金属部品を効率的に製造することが可能になります。

どうやって作るの?4つのステップ

MIM成形の製造プロセスは、以下の4つの主要工程から構成されています。

1. 原料の調合(フィードストック準備) 平均粒径10μm前後の極めて微細な金属粉末に、樹脂系バインダー(結合剤)を適切な比率で混練します。この工程により、射出成形機で扱えるペレット状の成形材料(フィードストック)を作製します。金属粉末の粒径と分布、バインダーの組成は、最終製品の品質に大きく影響するため、厳密に管理されます。

2. 射出成形 調製したフィードストックを精密金型に射出し、金属粉末とバインダーからなるグリーンコンパクト(成形体)を成形します。この段階では、プラスチック射出成形と基本的に同じ原理で、複雑な三次元形状を一度に成形できます。

3. 脱脂工程 成形体を加熱溶媒処理し、バインダー成分を除去します。この工程により、成形体は多孔質の茶褐色状態になり、金属粉末の骨格構造が形成されます。脱脂条件は材料系によって最適化される必要があり、不完全な脱脂は後の焼結工程に悪影響を与えます。

4. 焼結工程 脱脂後の成形体を高温炉で焼結し、金属粉末を融合させて高密度化します。この工程で数%の収縮が生じますが、適切な金型設計により狙い寸法に収束させることができます。焼結条件の制御により、最終製品の機械的特性が決定されます。

これらの工程を経て得られる焼結品は、約95~99%以上の高い相対密度を実現し、鋳造品や圧粉焼結品と比較しても遜色ない強度・材質特性を持ちます。

どんな部品が作れるの?

MIM成形で製造できる部品には、サイズ的な制約があります。一般的に長さ数cm、重量数十グラム以下の小型部品に適しており、実際の製造例では最大約50g程度までが現実的な範囲とされています。しかし、サイズの制約がある一方で、肉厚0.5mm程度の薄肉形状や微細構造の成形が可能であり、これは従来の鋳造技術では困難だった領域をカバーしています。

MIM成形の良いところを見てみよう

1. 複雑な形も思いのまま

MIM成形の最大の特徴は、金型を用いる射出成形プロセスにより、非常に複雑な三次元形状や微細ディテールをそのまま再現できることです。例えば、鋳造では製造が困難な横穴や中空構造も、MIMであれば金型設計次第で対応可能です。また、数ミリ程度の極小部品でも量産可能で、ロストワックス法では困難な超小型部品の製造にも適しています。

形状の自由度が高いため、従来は複数部品を組み合わせていた製品を一体成形で置き換える設計も容易になります。これにより、部品点数の削減や組立工数の低減が実現でき、製品全体のコスト削減にもつながります。

2. 精度が高くて品質も安定

MIM成形品は焼結により高密度化するため、優れた寸法精度と小さいばらつきを実現できます。一般にロストワックス鋳造の公差が±1%程度とされる中、MIM成形では±0.5%程度の一般公差を達成できるケースが多く、非常に高い寸法精度が得られます。

射出成形と精密金型によってニアネットシェイプに仕上がるため、追加の切削や研磨をほとんど必要としない場合も多く、仕上げ工程の簡略化による品質安定性も期待できます。また、材料が均一に混合・焼結されることで、製品ごとの品質ばらつきが少ない点も、量産部品には大きな利点となります。

3. たくさん作るほど安くなる

MIMは量産性に非常に優れた工法です。射出成形自体のサイクルタイムが短く、一度に多数の部品を成形できるため、大量生産時の一個あたりコストを大幅に低減できます。また、中間工程が少なく、組立や溶接を要する複雑形状品も一体成形で直接製造できるため、後加工の削減によるコストダウン効果も大きくなります。

特に形状が複雑であるほど、従来工法では加工工数が増えてコスト高になりますが、MIM成形なら工程集約によってそれらのコスト増大要因を抑制できます。適切なロット数を確保すれば、トータルコストで他工法に比べ有利になるケースが多いとされています。

4. 加工が難しい材料も大丈夫

MIM成形では材料の自由度も大きなメリットの一つです。原料粉末を調製できれば、高融点金属や硬質合金など様々な金属を扱えるため、切削加工が困難な超硬合金・タングステン・ステンレスなどの部品製造にも適用可能です。粉末から成形するため素材ロスが少なく、材料費が高い場合でも効率的に製品化できます。

ロストワックス鋳造と比べてみよう

作れる大きさ・重さの違い

ロストワックス鋳造は、ワックス原型を基に鋳型を作る鋳造法で、大きなものでは10cmを超える大型部品や数十kg級の鋳造も可能です。一方、MIM成形は前述の通り5cm以下・数十g程度までの小型部品の量産に向いた技術であり、明確なサイズの上限があります。

例えば、ステンレス製の小型精密部品を作る場合、大量生産であればMIMが有力な選択肢となりますが、それより大きいサイズやMIMで重量オーバーとなるものについては、ロストワックスを選ぶのが現実的です。

何個作るかで決まる向き不向き

ロストワックス法は小ロット生産に適しており、1個から数千個規模の生産でも金型費用を抑えて対応できます。金属型を必要としない(もしくは簡易な樹脂型で済む)ため初期投資が少なく、多品種少量生産に向いた方法です。

一方、MIMは初期に射出成形用の金型製作が必要で費用が高額になるため、少量生産には不向きです。一般にMIMのコストメリットが出やすい目安は1ロットあたり1万個以上とされ、数量が多いほど一個あたり単価が低減します。

したがって、試作段階や年間生産数が限られる場合はロストワックス、量産段階に移行して1万個以上を見込む場合はMIM、といった使い分けが効果的です。

精度と仕上がりの違い

寸法精度については、MIM成形の方が有利なケースが多くなります。ロストワックスも鋳造法の中では高精度な部類ですが、一般公差は±1%程度が標準的で、細部寸法は鋳造収縮や個体差の影響を受けます。これに対しMIMは精密金型を用いる効果で±0.5%程度と高い寸法再現性を示し、かつロット間の品質ばらつきも小さいという利点があります。

表面粗さに関しても、ロストワックスは鋳肌が若干粗くなる場合があり重要箇所は後加工で仕上げますが、MIM品は金型転写による滑らかな表面になるため追加研磨が不要なこともあります。ただし、寸法公差が厳しい部分については、ロストワックス品・MIM品いずれも最終的に切削加工で仕上げることが一般的です。

使える材料の種類

ロストワックス鋳造は、対応可能な材料の幅広さも大きな魅力です。アルミニウムや銅合金はもちろん、ステンレス鋼や耐熱合金など、あらゆる金属・合金を鋳造可能であり、高強度が求められる部品にも適しています。

一方、MIM成形で使用できる材料は粉末化できる金属に限られ、装置やバインダーとの相性も考慮する必要があります。実用上はステンレス鋼(SUS304やSUS316など)や低合金鋼、磁性合金などが中心で、高融点金属も可能ですが粉末や焼結条件の専門的最適化が必要です。

つまり、ロストワックスは素材選択の自由度が高く特殊材にも対応しやすいのに対し、MIMは実績のある材料に絞って量産する傾向があります。ただし、MIM向けの材料開発も進んでおり、今後利用可能な材質は増えていくでしょう。

どんな形が作りやすい?形状の自由度を比較

両工法とも複雑形状を作れますが、そのアプローチは異なります。ロストワックスはワックス原型を樹脂型から射出成形したり手作業で組み立てたりして製作し、これをセラミックに埋没して鋳型を作ります。したがって、アンダーカット(抜き勾配のない形状)や複雑内部形状も、ワックス原型の作り方次第では実現可能で、設計上の自由度は非常に高いです。

一方MIMは金型内で成形する都合上、基本的に抜き勾配や分割面を考慮した形状に限られ、鋳造ほど自由度は高くありません。また一体成形できるサイズにも制限があります。しかし、前述の通りMIMは最小0.5mm以下の薄肉や極小形状を直接成形できる強みがあり、形状精細さの面では優れた部分もあります。

総じて、大きく複雑な形状にはロストワックス、小さく精密な形状にはMIMが適していると言えるでしょう。

実際の現場ではどう選ぶ?選定事例をご紹介

実際の製品開発では、設計段階から将来の量産スケールや要求仕様を見据えて加工法を選ぶことが重要です。

実例:試作から量産まで、段階に応じた方法選び

あるステンレス製小型部品(サイズ約3cm、複雑形状・高精度要求)の開発を例に考えてみましょう。

開発初期の試作段階では、まだ設計変更の可能性もあるためロストワックス鋳造を採用します。ロストワックスであれば金型費用を抑えつつ数十個程度の試作品を短納期で製作でき、設計検証には十分な精度(±0.1mm程度)が得られます。

試作評価の結果、製品仕様が確定して大量生産が見込める段階になったら、MIM成形用の金型を新規製作して量産に切り替えます。例えば年間1万個規模の生産であれば、金型費用は掛かるものの部品単価はロストワックス時より大幅に低減し、総コストで数十%の削減効果が見込めます。

加えて、MIMによる量産品は寸法安定性・表面品質が向上し、追加工や選別の手間も減らせます。このように開発段階では柔軟性重視でロストワックス、量産段階では量産効率重視でMIMと工法を使い分けることで、トータルで見た最適化を図ることができます。

重要なのは、製品のライフサイクル全体を考えて適切な時期に適切な工法へシフトする判断です。最適解は製品ごとに異なるため、形状・精度要求・ロット数・コスト目標などを総合的に勘案して工法選定を行うことが肝要です。

まとめ – あなたに最適な製造方法を見つけるために

製品の品質・コスト・開発リードタイムは、どの加工方法を選ぶかによって大きく左右されます。最適な加工法の選定は設計者・調達担当者にとって重要な意思決定であり、複数の手法を理解して比較検討することが欠かせません。

MIM成形とロストワックス鋳造のように、それぞれメリット・デメリットや適性が異なる工法については、形状の複雑さ、要求精度、必要ロット数、対応材質、コスト構造などを総合的に考慮して判断する必要があります。

ときには開発段階と量産段階で最適な手法が異なることもありますし、従来は不可能と思われていた形状でも新しい工法で実現できる場合もあります。したがって、「この部品はこの工法で作るもの」という先入観にとらわれず、専門メーカーに相談して最適解を見つけることが重要です。

現代の製造業においては、単一の加工法にこだわるのではなく、製品要求に応じて最適な技術を選択し、組み合わせることが競争力の源泉となります。MIM成形とロストワックス鋳造は互いに補完関係にあり、適切に使い分けることで、これまで実現困難だった製品の開発や、大幅なコスト削減が可能になるのです。

武杉製作所では、ロストワックス鋳造とMIM成形のどちらにも対応しております。お客様のご要望、仕様に合わせ最適な加工方法を提案いたします。